ラグビーNZ代表オールブラックス(All Blacks)
ラグビーNZ代表はその黒いジャージから「オールブラックス(All Blacks)」と呼ばれ、常に世界のラグビー界の先頭を走り、他国から尊敬され、時には怖れられてきた。
ラグビーを普段観ない方でもオールブラックスが試合前に踊る「ハカ(Haka)」を一度は観たことがあるはずだ。
世の中には多くのスポーツがあるが、オールブラックスほど長年に渡り他国を圧倒してきたチームは存在しないのではないか。
しかもNZは人口僅か470万人の小さな国。
日本でいうと福岡県(511万人)よりも少ない。
同じくラグビーが盛んなイングランドや南アフリカの人口は約5,500万人、フランスは6,700万人。
NZのラグビー人口はこれらの強豪国と比べても少なく、特別体が大きい訳でもない。
ではなぜNZ代表は強いのか?
ここでは、その強さの理由について深掘りしてみた。
NZではラグビーが文化に

NZへ行ったことがある方であれば分かると思うが、空港や街中にはオールブラックスの選手が映った巨大な広告が並び、TVをつけると選手がCMに出演しているのを目にする。
2011年にNZでラグビーW杯が開催された際、多くの家の軒先やベランダにNZ国旗ではなく「オールブラックスの黒旗」が掲げられていたのが印象的だ。
NZでは「ラグビーが宗教」と言われるほど圧倒的な人気を誇っている。
NZの男の子の多くは、歩き始めればラグビーボールを手にしてオールブラックスの選手になることを夢みる。
NZを旅行すると、ラグビーのゴールポストが建っている公園や学校でラグビーボールを追いかける少年少女を目にする事もあるだろう。
オールブラックスはNZ人にとって心の拠り所となっており、注目度が高い一方「勝つのが当たり前」のため負けると時に厳しい批判に晒される事も。
NZにおけるラグビーは日本の野球、サッカー、相撲が持つ人気と伝統を合わせたような大きな存在。
オールブラックスがNZのナショナル・アイデンティティの一部になっている。
オールブラックスの「強さ」について
オールブラックスの強豪国(ティア1)との対戦成績
対戦国 | 試合数 | 勝 | 敗 | 分 | 勝率 |
イングランド | 41 | 33 | 7 | 1 | 80% |
フランス | 61 | 48 | 12 | 1 | 79% |
オーストラリア | 164 | 114 | 43 | 7 | 70% |
南アフリカ | 97 | 58 | 36 | 3 | 60% |
ウェールズ | 34 | 31 | 3 | 0 | 91% |
スコットランド | 31 | 29 | 0 | 2 | 94% |
アイルランド | 31 | 28 | 2 | 1 | 90% |
アルゼンチン | 28 | 27 | 0 | 1 | 96% |
上表は2018年11月時点の、オールブラックスの「ティア1」と呼ばれる強豪国との歴代対戦成績。
オールブラックスはラグビー発祥国のイングランド、ライバルのオーストラリア、南アも含め全ての国に対して大きく勝ち越している。
世界ランキングは2009年から継続して1位をキープしている。
ワールドカップでの優勝回数はNZが最多の3回、次いでオーストラリアと南アフリカ2回、イングランド1回。
日本代表はこれまでオールブラックスと5回対戦して全敗、ラグビーワールドカップ1995年大会の時には17-145という歴史的大敗を喫し、ラグビー人気低迷の原因にもなった。
また、NZ、南ア、豪、日本、アルゼンチンの計15チームが参加しているプロリーグ「スーパーラグビー」では、NZ勢5チームがここでも他国のチームを圧倒。
NZ勢は23年間で16回もの優勝を勝ち取っている。
なぜオールブラックスは強いのか?

オールブラックスが強い理由としては、
- ラグビーが圧倒的人気NO.1のスポーツ
- 他国からも優秀な選手が流入
- 育成システム、コーチング、環境の充実
が主として挙げられる。
NZではラグビーが最も人気のあるスポーツで国民のラグビーに対する熱量も高く、身体能力の高いトップ選手がラグビーを選択する。
2については、主にラグビーが盛んなオセアニア諸国の優秀な生徒に対し奨学金を払ってNZへ受け入れたり、NZでラグビーをすることを夢みて自ら海を渡ってくる選手を意味している。
オセアニア諸国の人々は英語を話し、距離や文化的にもNZに近く、人々の往来も盛んで移住しやすいという背景も。
現在のオールブラックスの選手もこれらの国にルーツをもつ選手が多い。
3の育成・コーチング・環境については日本が学ぶべき点も多そうだ。
NZではオールブラックスから地域協会までがコーチングや育成方法を共有。
その過程で選手のスカウティングも行われ、各年代の代表へと繋がっていく仕組みが出来上がっており、しっかり縦横の連携がなされている。
日本のような軍隊式のきつい練習や上下関係はなく、楽しさを追求、芝生の上で大人に混じって少年がプレーするなんてことも。
コーチングにも定評があり、日本代表HCジェイミー・ジョセフだけでなく、ウェールズ、アイルランド、ジョージア代表など、他国の代表やクラブチームを率いているNZ出身のHCも多い。
オールブラックスだけでなく他カテゴリーのラグビーも強い

オールブラックス(Allblacks)は一般的に15人制ラグビーのNZ男子代表を意味する。
15人制男子だけでなく、全ての年代やカテゴリーにおいて、どのチームも大会で優勝する力を持っている。
オールブラックスとは別に、先住民族マオリの血を受け継ぐ選手で構成される「マオリ・オールブラックス(Maori All Blacks)」はティア1と対戦しても勝つ力があり、W杯に出場してもベスト4に入る実力がある。
ラグビー女子ニュージーランド代表は「ブラックファーンズ(Black Ferns)」と呼ばれ、直近の2017年女子W杯での優勝をはじめ、8回のW杯で5回制覇している。
リオ五輪からオリンピック競技になった7人制ラグビーでは、女子は銀メダル、男子は5位に終わり男子は激しい非難を受けた。
しかし、2018年のワールドカップ・セブンズでは男女共に優勝、東京オリンピックでも金メダルの有力候補だ。
U20NZ男子代表「ベイビーブラックス(Baby Blacks)」は、U20チャンピオンシップで11大会中6大会で優勝。
これらはNZにおけるラグビー選手層の厚さを表している。
現役のオールブラックス選手
ボーデン・バレット(Beauden Barrett)
身長187cm、体重91kg、ポジションはSO、1991年5月27日生まれ。
ダン・カーターの後を継いだNZ代表の司令塔。2016年、2017年にワールドラグビー最優秀選手賞を受賞。
ラン、キック、パス、ゲームメイク全てに優れた選手で自らトライも。詳細はボーデン・バレットの凄さを解説にて。
ブロディー・レタリック(Brodie Retallick)
身長204cm、体重123kg、ポジションはLO、1991年5月31日生まれ。
巨体ながらワークレートも高く、攻守に渡って存在感抜群の世界的なLO。
2014年ワールドラグビー最優秀選手賞を受賞。
リーコ・イオアネ(Reiko Ioane)
身長189cm、体重102kg、ポジションはWTB、1997年3月18日生まれ。
2016年に7人制のNZ代表としてリオ五輪に出場、そして2016年11月に19才でオールブラックスデビュー。
現在は21才ながらすでにNZ代表キャップ22、スーパーラグビー(ブルーズ)も35試合出場しトライを量産、W杯でもトライ王を狙う。
「リーコ」という名前は父エディーが日本のトップリーグ「リコー」でプレーしており、その名にちなんで命名。
オールブラックスの歴史に残るスター選手
オールブラックスはこれまで様々な名選手を輩出してきたが、ここでは記録にも記憶にも残る2選手をご紹介。
ジョナ・ロムー(Jonah Lomu)
身長196cm、体重120kg、ポジションはWTBで19才の時にオールブラックスデビュー。
超ビックサイズながら100mを10秒台で駆け抜ける速さと強さを兼ね備え、相手選手を何人も吹っ飛ばしトライを取るプレーが世界中のファンを驚愕させた。
ワールドカップでは1995年南ア大会、1999年ウェールズ大会で2大会連続トライ王に。
アメリカのNFLチームが約7億円もの大金を積んで獲得に動くなどしたがロムーはNZに留まることを選択、しかし2003年以降は腎臓の病気の手術や怪我で苦しむシーズンを送った。
2007年にラグビー選手を引退、2015年に腎不全にて40年の短い人生に別れを告げた。
リッチー・マコウ(Richie McCaw)
身長188cm、体重108kg、ポジションはFL、1980年12月31日生まれ。
テストマッチ出場記録は世界最多の148caps、ワールドラグビーの年間最優秀選手賞の受賞は3回、NZ代表キャプテンとしてワールドカップでは2011年NZ大会、2015年イングランド大会でチームを連覇に導いた。
選手として優れているのはもちろん、リーダーシップと人間性も抜群で広く尊敬を集めており、NZで最高の栄誉「ニュージーランド勲章(Order of New Zealand)」を35才という異例の若さで受賞した。
2015年W杯後に現役を引退した後はヘリコプターパイロットとして活躍している。
なお、NZ代表の試合をテレビで観戦する方法はJ SPORTSに加入すると、NZ代表の試合だけでなく、NZ代表選手が所属するスーパーラグビーの試合を観戦することができる。
Jスポは2019年W杯日本大会も全試合生中継する。
以上、ラグビーNZ代表「オールブラックス(All Blacks)」の憎たらしいほどの強さとその理由をご紹介した。
9月に日本で開幕するラグビーW杯も当然、NZ代表オールブラックスが優勝候補として来日する。
ぜひその強さと巧さをスタジアムやテレビで体感して欲しい。