【書評】スポーツ事業マネジメントの基礎知識

スポーツ

スポーツ事業マネジメントの基礎知識

書籍名 スポーツ事業マネジメントの基礎知識
著者 金森喜久男
発売日 2015年11月12日 
出版社 東邦出版
ページ数 195ページ 
値段 1,400円(税抜) 

著者の金森氏はパナソニックの情報セキュリティ本部長などの要職を経てガンバ大阪の社長に就任、社長時代はチームの強化を図るだけでなく、スタジアム運営、グッズ開発・販売、顧客サービスなどで様々な改革を実行、現在は追手門大学の教授としてスポーツ事業マネジメントを学生に教えている。

この本ではガンバ大阪での実体験をもとに、プロスポーツのあり方や魅力、スタジアムを作る意義、今後のスポーツ産業について語っている。特にガンバ大阪のホーム「市立吹田サッカースタジアム」の建設の経緯については詳しく記されている。

今や日本代表の試合なども開催され、ピッチから観客席までが近く、サッカーを観戦するには国内でベストと評価の高い吹田スタジアム。このスタジムの建設費用140億円を全て募金で集めたという報道を目にして、興味があったので手に取った本。

スポーツ観戦好きの方や将来スポーツビジネスに関わりたいと考えている方にオススメの一冊だ。

プロスポーツ選手として成功するための重要な3つのこと

1.前向きに考える
2.勇気を持って発言する
3.現状を正しく理解する
この3つの才能は、どんな苦境に陥っても前向きに考えることであり、自分が正しいと思ったことを発言して不正を正す考えであり、置かれている状況を正しく受け止め、素直に自分を変えていく能力です。

ガンバ大阪の社長として現場で成功した選手や結果を出せずにサッカー界から消えていく選手を見てきただけに説得力がある。成功するためには身体能力やセンスだけでなく、人間力も重要だという。

特にプロスポーツ選手は子供の時からチヤホヤされてスター街道まっしぐらというような人も多く、そういう選手が正しい教育を受けずに大人になり、何かの壁に当たったのをきっかけに凋落していくケースも見かける。

アメリカで最も人気のあるアメフトのNFL選手は現役時に大金を稼ぐものの、引退して2年後には約8割の選手が破産か財政的に厳しい状況に陥ると聞いたことがある。大金を稼ぎ、社会的な責任が大きいスポーツ選手ほど教養が必要だ。

サッカー「選手協会」から「労働組合」へ

サッカー選手たちが労働組合を結成するというのは、良い傾向であると思います。労働組合は組織が成長・発展してくる過程で結成される傾向がありますから。(中略)選手会が労働組合化して、その代表が雇用者側と話し合う場を持つというのは、我々雇用者にとっても大いに助かります。

金森氏はJリーグ選手協会が労働組合化することに反対意見の多い経営側をこのように説得、その結果、2011年に選手会は労働組合に移行した。

日本サッカー協会、 Jリーグ、各クラブ、選手会が毎月開催される協議会などで情報を共有し、よりよい方向へ進むよう議論を重ねることで、多くの問題が解決するようになったという。

これで思い出したのは2016年に発足した「日本ラグビーフットボール選手会(JRPA)」。JRPAは労働組合としての機能はなく、ラグビーの普及活動や選手のセカンドキャリアへのサポートを主とした目的としている。

ラグビーの場合は選手と協会のコミュニケーションが不十分のようで、選手から試合運営などについての不満を聞くことがある。Jリーグの選手協会が設立されたのは1996年、ラグビーは20年も遅れているが、運営側も選手の声をよく聞いて一体となった運営を目指して欲しい。

スポーツの障壁となるアマチュア規定

私は日本においてスポーツの成長の障壁となっているものに「プロとアマ」という考えがあると思います。

「アマチュア(アマ)」という言葉は、イギリスの貴族が肉体労働で鍛え上げた労働者にレガッタで勝つことができず、彼らを排除するために自分たちだけが参加できるアマチュア規定を設けたことに由来するという。

オリンピック憲章からは1974年にアマチュアの定義が削除されたものの、日本では現在も「アマチュア選手はスポーツで金銭的な報酬を受けるべきではない」という考えがあるのが不思議。

最近だと体操の内村航平、水泳の萩野公介がプロ選手になり大きく報道されたが、企業のサポートを受けて一定の制約の範囲内で競技を行うのではなく、自分の力で可能性を切り拓いていくアスリートが増えて欲しいと思う。

市立吹田サッカースタジアム

万博のスタジアムのピッチは周りを陸上競技場のレーンに囲まれており、観客席から一番近くて35メートルのところにあります。ゴールした瞬間はどの選手がゴールを決めたのかさえわかりにくい構造で、試合の面白さが半減しています。また、屋根がないため雨が降れば観客は合羽を着るしかありません。

選手からも観客からも不評だった万博記念競技場。

そこで2008年にガンバが主体となって新スタジアム建設を計画、建設費である140億円を寄付で集め(法人99億円、totoや国からの助成金35億円、個人6億円)、2015年にサッカー専用スタジアム「市立吹田サッカースタジアム」が完成した。

新国立競技場の建設費がすったもんだの挙句に1,600億円となったことから考えると140億円というのは驚くほど安い。

建設にあたっては金森社長も自らヨーロッパのサッカースタジアムを視察、タッチラインまでは規定内で最短の7m、全席が屋根で覆われており、ベンチが観客席に埋め込まれ、スタンドの傾斜は35度のサッカーを観戦するうえで最適の角度に設定されるなど、観客にとってはサッカーを楽しめる最高スタジアムに。

またスタジアム内に災害用の備蓄倉庫を設置、災害時には一時避難場所として地元の方が利用できるようになっている。

吹田スタジアムの隣には大型複合施設エキスポシティもオープン、2016年は1年間で2,400万人を集客し、地域の活性化に大きく寄与している。

参考:ガンバ大阪の収支

ガンバ大阪のクラブ収入(毎年30億円〜40億円で推移)
スポンサー料 18億円
入場料 5億円
グッズ売り上げ 3億円
Jリーグ配分金 3億円
その他 4億円

ガンバ大阪のクラブ支出
選手、スタッフ人件費 19億円
試合開催運営費 5億円
練習場等管理費 9億円

スポーツ事業マネジメントの基礎知識「目次」

序章 スポーツの特性
第1章 スポーツの魅力
第2章 顧客を創造するフェアな精神
第3章 選手の人格がスポーツ人気を支える
第4章 グローバルな視点がスポーツを繁栄させる
第5章 プロポーツ事業と顧客の創造
第6章 なぜ、新スタジアムが必要か
第7章 サッカー専用新スタジアムの成り立ちと構造
第8章 スポーツ産業の将来

スポーツが持っている魅力とスポーツビジネスの大きな将来性がよく分かり、心が踊る本。この本を読めばスポーツ観戦でスタジアムを訪れた際に、新たな視点でスタジアムを見ることができるはずだ。

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